JAPIA ものづくり紀行

【第14回】 杉山良晴氏
(金属材料検査工・日立オートモティブシステムズ)

「品質水準の向上は企業の発展に欠かせない重要な条件の一つです」

pht_no14_1.jpg第14回は、日立オートモティブシステムズの杉山良晴(すぎやま・よしはる)さんです。杉山さんは神奈川県厚木市出身の1948年7月生まれの62歳で、金属材料検査を中心とした同社の品質保証分野の第一人者です。67年4月厚木自動車部品(現日立オートモティブシステムズ)に入社、厚木工場検査課、84年11月同検査課班長、90年11月同係長、91年11月秋田工場品質保証課係長、96年11月厚木工場品質保証課主任(係長から主任に役職名変更)、2002年品質保証本部機器機構システム品質保証部主任から上級生産指導員として品質保証業務に従事、08年7月定年退職。退職後も、引き続き同業務を嘱託社員として担当。この間、1984年3月一級金属材料試験技能士、同年12月職業訓練指導員免許(金属材料試験科)、85年7月同(熱処理科)、91年3月特級金属熱処理技能士、96年3月二級機械保全技能士、99年3月訓練指導者資格証明書(TWI・JRトレーナー)など、幅広く免許や資格を取得。その一方で、83年5月技能競技大会「二級金属材料試験」で神奈川県知事表彰、2003年10月金属材料製造検査の卓越技能者として県知事表彰に輝くなど、数々の栄誉を授与されています。そして、10年11月には厚労省の同年度の「現代の名工」に認定されています。また、同社で「現代の名工」に認定されたのは、今回の杉山さんが初めてです。

■「92(歳)の母が誰よりも喜んでくれて」

 話の折々に使った「とことん」の言葉が、座右の銘の「人事を尽くして天命を待つ」とも重なり、ものづくり人生を貫いているバックボーンのようにも聞こえてきそうだ。そんな気迫が十分な方である。金属材料検査を中心とした品質保証分野一筋に歩んで43年。昨年秋には、アルミ材鋳造不良の大幅低減をはじめ、金属材料検査部門に印した一連の功績が品質保証分野のレベルアップに大きく貢献したとして、2010年度の「現代の名工」にも輝いた。「92(歳)の母が誰よりも喜んでくれて嬉しかったですね」。改めて、栄誉の"重さ"を実感。製品品質の水準向上や後進の育成にも一段と拍車がかかりそうだ。

 「今や、品質水準の向上は企業の発展にとっても欠かせない重要な条件の一つです」。長年の経験に裏打ちされた自信からか、品質保証業務に取り組む自らの姿勢を明快に言ってのける。その品質保証は「顧客や社会のニーズを満たすことを確実にし、確認し、実証するために組織が行なう体系的活動」(日本品質管理学会)と定義され、年々、その役割は増しているとも。きっかけとなったのは、1995年に施行された製品の欠陥を立証すれば損害賠償が請求できる規定を盛り込んだ製造物責任(PL)法だ。それを機に、品質保証への社会的な関心が急速に広がったという。



■時には警察の鑑識捜査的な手法も
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 「例え、どんな製品か判らなくとも、図面を見れば、どの材料からどのように作り上げてきたかという完成までの過程は見当がつきますよ」。これまでに手がけてきたのはエンジン心臓部のピストンをはじめ、エンジン振動を和らげるバランサー、アンチロックブレーキシステム(ABS)など、自社製品や取引先完成品の様々な自動車部品だ。いずれも「各種規格を満たしているか、さらにお客様に満足して頂けるか」などを中心に検査し、評価・判定してきたという。

 具体的には、図面に書かれている全項目をチェックシートに基づき、全てを確認。「図面がしっかりできているか、また(製品が)図面通りにできているか、それを証明していくのが、私たち品質保証の役割です」。このため、時には警察の鑑識捜査的な手法や、航空機事故の国交省の事故調査委員会的な調査方法などを駆使して、品質保証を与えるのに必要な証拠を集めることも。

 そればかりか、ディーラーやメーカーに持ち込まれた苦情にも「24時間体制」で対応しているという。「最近は国内だけではなく、海外の苦情にも対応しています」。自動車部品のほんの些細な不具合でも大きな自動車事故に繋がる恐れがあるからだ。


■資格取得がレベルアップの"バネ"に
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 そんな品質保証に取り組むようになったのは入社2年目の68年4月、厚木工場検査課の製品検査に配属されてからだ。「別に希望した配属先でもなかった」が、それが、その後の自身のものづくり人生を決定していくのだから、人生の"妙"の面白さか。担当したのは金属材料検査だ。金属(鉄合金)や非金属(非鉄合金/軽合金)品の組織、硬さ、質量、割れ、傷、巣などを試験検査の上、材料強度が各種規格を満たしているかなどを評価・判定する担当だ。以来、一貫して金属材料検査を中心に品質保証分野に取り組み、その第一人者としての地歩を着実に固めていく。



■"とことん"精神の本領発揮か

 今も懐かしく思い出すのは、新人時代の「写真検査」だ。例えば、金属材料のミクロン単位の検査はこうだ。まず、対象材料を写真撮影。次にそのフィルムを現像の上、感光紙への焼き付け段階で引き伸ばして拡大写真に。その拡大写真を検査し、評価・判走したという。「今でも、写真のDPE(撮影したフィルムの現像、焼き付け、引き伸ばし工程)はできますよ」。その頃は工場の一角に「写真室」が設置され、金属材料の写真検査が頻繁に行なわれていたという。新人時代に刻んだ懐かしい思い出の一コマだ。

 また、仕事を進めていく上で自信に繋がったのは、技能検定など各種資格の取得だ。「もう一段上のレベルの仕事に挑戦していく時にはやはり、技能検定などで取得した資格が大きな白信になりました」。83年5月の「2級金属材料試験技能士」をスタートに、次々と技能検定や資格取得に挑戦した。それも、自らに課したのは"一発合格"だったというから、退路を断った上での挑戦だ。「若い頃は、よく上司から『お前の取り柄は真面目だけだ』といわれましてね。それなら、とことん真面目に仕事に取り組まなければと思いましたよ」。自らを鼓舞する"とことん"精神の本領発揮といったところか。

 加えて、緻密に準備を重ねる才能の持ち主でもある。過去の試験問題を念入りに分析の上、事前に出題される課題を想定し、傾向と対策とをしっかり立てて、技能検定など各種資格試験に臨んだというから、なかなかの用意周到ぶりだ。そして、そんな試験勉強を通じて副次的な成果も上げる貪欲さも。「金属熱処理という分野がありますね。あれは日本刀づくりの技術が原点ですね。技能検定の金属熱処理技能士を受検するので、あれやこれや勉強を重ねていたら、日本刀づくりの技術の応用だと気づきましたよ。そんな発見もありましたね」。



■工場内品質管理体制「金属材料ラボラトリー」の構築も
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 中でも、自らの評価を高めたのは、地道に積み重ねてきた幅広い学識と技能とを結集して実現した金属材料試験技能や製品・部品の品質保証への貢献などだ。盤石な工場内品質管理体制の「金属材料ラボラトリー」を構築したのも、その一つだ。各種試験機を導入する一方、校正点検基準や標準作業書を作成するなどして、環境を整えて、専用検査場化を図ったという。

 また、アルミ材鋳造不良の大幅低減は、徹底した現品調査解析から鋳造時の給湯条件を調査・分析の上、最適品質条件を探索し、「分割給湯化」を突き止めて実現させたという。同時に、「ピストン品の外観不具合見本集」の作成、「QMマトリックス化」による標準化の推進など、品質保証分野のレベルアップに向けて様々な観点から貢献を積み重ねてきた一人でもある。


■会社の同僚からは「これでお父さんを超えたのでは」

 親の背中を見ながら子は育つというが、そんな絵柄も描けそうな"父子二代"のものづくり人生だ。小中学校時代は、国語や英語などが好きな文系的な子供だったという。それが、一転して理系のものづくりの世界へ。「不思議なものですね。父が自動車メーカーに勤めていたせいか、知らず、知らずのうちに、ものづくりの世界に進むものだと思うようになっていましたからね」。しかも、父親は小型から大型まで各種車両の運転免許を持つクルマ運転の名手だったという。

 だから、高校は自然に工業高校へ進学。そして、工業高校卒業後の進路は「父が勧めたわけでもない」のに67年4月、迷わず、自動車部品メーカーの厚木自動車部品(現日立オートモティブシステムズ)に入社した。同期入社は「全国から150人くらいは集まってきたかな」。入社1年目に配属されたのは試作部門。そこで、ものづくりのイロハを学んだ。父子二代のものづくり人生がこうしてスタートを切った。それから43年目の秋、ついに「現代の名工」という飛び切り"一級品"の栄誉に輝いた。ただ、目標の父親は7年前に他界されたという。会社の同僚らは異口同音に「これでお父さんを超えたのでは」と祝福のエールを送る。「白梅のあと紅梅の深空あり」(飯田龍太)。これからどんな軌跡を描いていくか、ものづくり人生はまだ道半ばである。

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『ものづくり紀行』口上

自動車部品産業は「ものを作る人々」によって成り立っています。国が認定した「現代の名工」をはじめ、技能オリンピックのメダリストも多数おられます。
そういう方々を訪ねて自動車部品という領域で「ものを作る人々」が持つ思いや、部品企業ならではの楽しさを知っていただく試みとして、不定期連載の形でインタビューをお届けします。
さすがに「京浜間」の物作る人々を活写したエッセイ集などを多数上梓しておられる小関智弘さんのようには参りませんが、なにとぞご一読のほど願い上げます。

 

INDEX

【31】桂山光弘氏 (アイシンAW)

【30】太田雅也氏 (東海理化)

【29】佐藤輝夫氏(アスモ)

【28】匠道場「入江塾」(京浜精密)

【27】沖光和義氏(小島プレス工業)

【26】横堀吉晴氏(ミツバ)

【25】小室和春氏(日立AS)

【24】高橋信雄氏(アルプス電気)

【23】高橋伸尚氏(市光工業)

【22】小岡芳美氏(トヨタ紡織)

【21】田中幸孝氏(東海理化)

【20】ブレーキ博物館

【19】ジヤトコヘリテージコーナー

【18】稲吉喜一郎氏(ジェイテクト)

【17】倭将人氏(小島プレス工業)

【16】池田重晴氏(AISIN AW)

【15】日ピスものづくり学校

【14】杉山良晴氏(日立AS)

【13】朝比輝男氏(ジェイテクト)

【12】三輪修氏(デンソー)

【11】安部良夫氏(デンソー)

【10】水野幸夫氏(豊田自動織機)

【09】中村誠次氏(豊田自動織機)

【08】秋山康夫氏(GKN)

【07】緒方栄一氏(プレス工業)

【06】佐藤賢修氏(デンソー)

【05】桂功氏(デンソー)

【04】杉浦悦夫氏(アイシン精機)

【03】都築數樹氏(アイシン精機)

【02】塚本高敏氏(アイシン精機)

【01】大橋正明氏(アイシン精機)