JAPIA ものづくり紀行

【第19回】「ジヤトコヘリテージコーナー-AT/CVTの進化-」

<番外編その1>「技術文化を発信する場にもしたいですね」

 

pht_no19_1.jpg 第19回は、番外編その1として自動車用変速機の常設展示施設「ジヤトコヘリテージコーナー-AT(自動変速機)/CVT(無段変速機)の進化-」を取り上げます。同施設はジヤトコ製の技術的に進化を続けているATやCVTの40年以上の歴史に光を当て、それを保存し、伝承する目的で静岡県富士市吉原宝町のジヤトコ富士第1地区ウエルカムセンターに10月24日にオープンしたものです。写真はテープカットする右から日産自動車の廣瀬執行役員、中央が秦社長、左がオランダDAF社製CVTを寄贈した石神氏です。展示品は、当時世界初の7機種をはじめ、同社製のAT9、CVT7台の16台を中心に、CVT作動原理の体験モデル、DAF社製のCVTなどです。見学は、同社CVT工場とセットで地元の小学校など教育機関を中心に受け入れています。同社では「見学を通じて子ども達にクルマやものづくりなどの面白さを知って貰えれば」と話し、ものづくり人口の裾野拡大にも活用していく考えです。また、将来的には一般の見学も受け入れる方向で検討を進めています。今回はこれまでの「現代の名工」、「ものづくり学校」に続き、番外編その1として「展示施設」を加えてみました。

■「もったいないな」と自社製品に光を当てる

ともすれば、見過ごされがちな過去に製造されてきた自社製品の数々。そこにはその時代、時代に求められた技術や技能など、現代のものづくりにも必要な数多くのエッセンスが詰まっているのも事実だ。が、大半は倉庫などに眠ったままで、新たな出番がほとんどなさそうだ。そんな製品に改めて光を当て、「もったいないな。何かに活用できないものか」と、再活用の"一石"を投じたのが社長の秦孝之さん。狙い通りだったのか。社内に波紋が大きく広がり、展示施設「ジヤトコヘリテージコーナー-AT/CVTの進化-」開設へと結実した。それも、構想立案から半年足らずの"突貫工事"でオープンしたというから、同社関係者らの力の入れようは半端ではなさそうだ。だからか、その先に見据えるのは「ジヤトコの技術文化を発信していく場にしたいですね」。秦さんの期待も膨らむ一方だ。

展示品の主役でもある「自動車用変速機」。一般的には「トランスミッション」と呼ばれ、日本語では「変速機」と訳される。エンジンから動力を最適な形でタイヤに伝えることで滑らかな走りを実現する、自動車に不可欠な装置だという。その上で「その設計や制御ソフトのプログラミングによって自動車の運動性能や燃費、環境性能は大きく左右されます。遊星ギアを組み合わせたステップATからベルトとプーリーで無段階に変速するCVT、モーターを搭載したハイブリッド車用トランスミッションと、自動車の進化とともに、トランスミッションも進化を続けています」(『ジヤトコ会社案内』から)。

■世界初の7機種を中心に展示

ジヤトコが開設した「ジヤトコヘリテージコーナー-AT/CVTの進化-」は、東日本では初めての自動車用変速機の展示施設だという。この40年以上の自動車用変速機の技術的な進化を自社製品のそれを通して紹介、併せてそれらを保存、伝承する目的から開設した。そこで、展示品には自社製のAT9台、CVT7台のカットミッション16台を中心に、参考展示としてオランダDAF社製ゴムベルト式CVT「Variomtic」、さらにCVTの「作動原理モデル体験コーナー」も配置し、技術的な進化を時系列的に紹介しているのも特徴の1つだ。

加えて、展示施設の名称に英語の「へリテージ」(Heritage)を使い、遺産とか、伝承などといった含みを持たせているのも見逃せない。「ヘリテージ」とは日本語では「遺産、伝承、伝統」(三省堂カタカナ語辞典)と訳されている。

中でも、最大の"売り"はカットミッション16台のうちのAT3、CVT4のジヤトコ製の世界初7機種だという。「先輩らが苦心して製造してきた製品です。画期的な新技術や技能などが数多く詰まっている自慢の製品ばかりです」と、説明にも一段と力がこもる。

■まずはAT3機種から
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3機種はまず、1989年のFR車用5速AT「JR502E」(写真)。FR用5速では世界初で、4速ATをベースにオーバードライブを追加した。高速時での燃費と静粛性を向上させた。搭載したのは、日産セドリック/グロリア(1989-1995年)、BMW3シリーズ/5シリーズ(1991-1995年)など。

1995年のFF車用5速AT「F5A5」は世界初のFF車用5速ATで、車両相互制御付きのINVECSⅡ。三菱・ディマンテ(1995-2005年)などに搭載。


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2010年のFR車用ハイブリット車用トランスミッション「JR712E」(写真)は、独自の1モーター2クラッチ方式を採用(FR車用7速ATベース)し、トルクコンバータのスペースにモーターとクラッチを配置した優れた搭載性を発揮。日産フーガハイブリッド(2010年~)、シーマ(2012年~)。

■CVTは4機種

続く「CVT」の4機種は、1997年のFF中型車用ベルトCVT「F06A」。世界初の高強度スチールベルト式2リッタークラスCVTで、発進要素にトルクコンバータを採用、発進加速性が向上した。日産プリメーラ(1997-2005年)、同リバテイ(1998-2004年)などに搭載。

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1999年のFR車用トロイダルCVT「JR006E」(写真)。起源は1877年に米国で発明されたトロイダル形状変速機構。1920年に「Toricトランスミッション」をGMが開発するも、市販されなかった。燃費が良く、高級車に適した滑らかでクイックなレスポンスと力強い加速を実現。困難といわれたトロイダルCVTの量産に世界で初めて成功。搭載したのは、日産セドリック(1999-2004年)、同スカイライン350GT-8(2002-2005年)など。


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FF3・5リッタークラス 大型車用ベルトCVT「JF010E」(写真)。3・5リッタークラスまでのFF車用のCVT化を世界で初めて実現。軽から高排気量のFF車をカバーするフルラインナップ化。日産ティアナ(2003年~)、日産ムラーノ(2002年~)、同アルティマ(2006-2012年)などに搭載。


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2009年のFF軽・小型車用CVT(副変速機付き)「Jatco CVT7」(写真)は、8速ATを超える世界最大クラスの変速比幅(7・3)とフリクション大幅低減(従来比約30%減)により燃費が大幅に向上。さらに、従来比重量約11%減の小型・軽量化も実現。搭載したのは、日産ジューク(2010年~)、同マーチ(同)、スズキパレット(2009年~)など。 


■世界初の量産化オランダDAF社のCVTも
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また、1958年に世界で初めて量産化されたオランダDAF社製の世界初のゴムベルト式CVT「Variomatic」(写真)も参考展示されている。2本のゴム材ベルトで800ccのエンジン出力を伝達するもので、DAF600に搭載され、100万台以上を生産したという。展示品は石神輝男氏から寄贈された。

1970年1月に会社設立以来、ジヤトコは自動車用変速機の世界で40年以上に亘って技能や技術の蓄積を重ねて各種製品を市場に送り出してきた。この間、数々の世界初の新技術を搭載したAT、CVT、ハイブリッド車用トランスミッションを開発。中でも、CVTは1997年に金属ベルト式CVTの生産を開始以来、そのパイオニア企業として常に業界をリードしてきた。そして、2011年には全世界で生産されるCVT台数の約55%のシェアを占めるまでに業績を拡大、業界トップ企業としての地歩も築いた。


■製品、データなどの保存、伝承を展示施設の重点柱に

 そんな中、総合商社や外資系企業などでキャリアを積んで2011年4月、顧問でジヤトコ入りした秦さん。同年6月には社長に就任した。以来、開発センター、工場などの会社施設を歴訪した。その中で、倉庫などに保管されている自社製のATやCVTが気にかかり、活用の方策はないかと考えた。
それが今回の展示施設の開設へと繋がったという。2012年春には、経営企画部、工務部の有志の間でこれまでのATやCVTの自社製品の活用策の検討が始まった。

そこで、浮上したのが「展示施設」の開設だ。基本方針には(1)ジヤトコには40年を超えるTM(トランスミッション)技術と進化の歴史がある(2)その上に、革新的な世界初製品を数多く誕生させている、の2点を据え、自社製品の価値を再評価した上で、自動車用変速機の社会的なPR材料として活用していくことを確認した。

具体的には、TM進化の歴史を象徴的に展示(見える化)する一方、製品や技術情報の資料、データなどを保存、伝承することを重点柱に設定、展示施設の名称も「ジヤトコヘリテージコーナー-AT/CVTの進化-」に決めた。


■歓迎のエールも送られて
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当初から展示施設づくりに関わっている経営企画部の小野田司さんは「志を同じくする社内外の方々との連携で、構想・企画から数カ月で完成することができました。その時代のニーズに応じて、諸先輩が成し遂げた技術革新に敬意を払うと同時に、これを支えた各メーカーのものづくりに感謝しています。後世に伝承していく一助になれば幸いです」と振り返っている。また、日産自動車執行役員の廣瀬淳さんも「日産でも横浜でエンジン博物館を展開しています。で、実際に現物に触れて貰う目的から小学生の見学も受け入れています。日本のものづくりがさらに発展してくれれば、と願ってのことです」と歓迎のエールを送っている。

見学は、熱処理、加工、組み立てなどを行なう同社CVT工場とのセットで地元の小学校などの教育機関を中心に受け入れているという。すでに、2012年は700人ほどの見学申込みがあり、将来的には一般の見学も受け入れる方向で具体的な検討を始めた。「一般の見学を受け入れるには、受け入れ体制を整備する必要性が出てきました。目下、その検討を進めているところです」と、受け入れ体制の整備も新たな課題として浮上中だ。が、どこか、雰囲気的は「玉の如き小春日和を授かりし」(松本たかし)の句境のような世界にも似ていそうなのだが、どうだろうか。

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『ものづくり紀行』口上

自動車部品産業は「ものを作る人々」によって成り立っています。国が認定した「現代の名工」をはじめ、技能オリンピックのメダリストも多数おられます。
そういう方々を訪ねて自動車部品という領域で「ものを作る人々」が持つ思いや、部品企業ならではの楽しさを知っていただく試みとして、不定期連載の形でインタビューをお届けします。
さすがに「京浜間」の物作る人々を活写したエッセイ集などを多数上梓しておられる小関智弘さんのようには参りませんが、なにとぞご一読のほど願い上げます。

 

INDEX

【31】桂山光弘氏 (アイシンAW)

【30】太田雅也氏 (東海理化)

【29】佐藤輝夫氏(アスモ)

【28】匠道場「入江塾」(京浜精密)

【27】沖光和義氏(小島プレス工業)

【26】横堀吉晴氏(ミツバ)

【25】小室和春氏(日立AS)

【24】高橋信雄氏(アルプス電気)

【23】高橋伸尚氏(市光工業)

【22】小岡芳美氏(トヨタ紡織)

【21】田中幸孝氏(東海理化)

【20】ブレーキ博物館

【19】ジヤトコヘリテージコーナー

【18】稲吉喜一郎氏(ジェイテクト)

【17】倭将人氏(小島プレス工業)

【16】池田重晴氏(AISIN AW)

【15】日ピスものづくり学校

【14】杉山良晴氏(日立AS)

【13】朝比輝男氏(ジェイテクト)

【12】三輪修氏(デンソー)

【11】安部良夫氏(デンソー)

【10】水野幸夫氏(豊田自動織機)

【09】中村誠次氏(豊田自動織機)

【08】秋山康夫氏(GKN)

【07】緒方栄一氏(プレス工業)

【06】佐藤賢修氏(デンソー)

【05】桂功氏(デンソー)

【04】杉浦悦夫氏(アイシン精機)

【03】都築數樹氏(アイシン精機)

【02】塚本高敏氏(アイシン精機)

【01】大橋正明氏(アイシン精機)