JAPIA ものづくり紀行

【第20回】「ブレーキ博物館」など(曙ブレーキ工業)

<番外編その2>"唯一無二"のものづくりを目指す曙ブレーキ、人財育成基盤を一段と強化

 

pht_no20_1.jpg 第20回は、番外編その2として曙ブレーキ工業のブレーキ博物館「Ai‐Museum」(写真)と「モノづくりセンター」を訪ね、目標に掲げる「日本でのものづくり機能を強化して"唯一無二"の存在となるグローバル人財育成に向けた取り組みをリポートします。「Ai‐Museum」は、同社の創業75周年を記念して2004年10月に開設し、翌05年4月から一般公開されています。対外的には同社のシンボル的な存在で、知名度も上昇カーブを描いています。また、2011年1月にスタートした「モノづくりセンター」は、研修生が座学+体験⇒検定の流れで学習し、実際の職場で役に立つものづくりに強い人財育成に取り組んでいます。加えて、2012年12月にはグローバル研修センター「Ai‐Village」(アイヴィラージュ)が完成し、グローバルな人財育成にも一段と力を入れています。

■「ものづくり」への思いを新たに

「如月や日本の菓子の美しき」(永井龍男)。文芸評論家の山本健吉氏は「句歌歳時記」の中で、冒頭の句を「日本の生菓子も、鶯餅、椿餅など、さまざまな春らしい装いを凝らして出てくる。そのささやかな美しさをたたえた」と評している。どこか、曙ブレーキ工業の取り組みには、この句にも通じそうな心意気というか、強い意思というものが感じられる。やはり、同じものをつくる理念のもとに「安全・安心」を提供していくことにテーマを据えているからか。    

そういえば、埼玉県羽生市は田山花袋の「田舎教師」の舞台となったところで有名だ。近くを"坂東太郎"の異名を持つ利根川が流れ、対岸には群馬県邑楽(おうら)郡明和町が広がる。加えて、江戸時代末期頃から濃い藍染めの綿織物「青縞(あおじま)」の産地としても知られる。そんなものづくりの伝統が今も、ブレーキづくりにも脈々と息づいているのかしれない。

「昨年(2012年)秋、東京都内の小学校から『社会科の授業の教材として展示品を貸して頂けませんか』と依頼がありましてね」。ちょっと誇らしげに披露するのは総務部の今泉達哉さん。オープンしてから2013年で9年目を迎えるブレーキ博物館「Ai‐Museum」。このところ、存在感を増しつつあるのか、何かと話題を提供している。「もちろん、(依頼に応えて)体験型の展示品を使って頂きました。授業が大いに盛り上がったと先生から伺いました。未来を担う子供たちにブレーキに対する理解や興味を深めてもらうことで、将来ものづくりに関わる仕事に携わってもらえたら嬉しいですね。そういう形で日本のものづくりの伝承に貢献できたら、と思っています」。

本社の一角にデンと構える「Ai‐Museum」。1階建ての広さ800平方メートルの博物館だ。単一製品の博物館としてはかなりの規模を誇る。館内には200点以上のサンプルが「製品」「ブレーキ機能説明」「歴史」の3ゾーンと、「体験」「今後の技術・製品紹介」の2コーナーとに分類展示され、ブレーキの技術や機能などを平易な記述で紹介している。

■ブレーキを通して戦後の自動車産業史の一端も
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このうちの「製品展示ゾーン」は、自動車を中心に戦後のブレーキ技術史を彩る"一時代"を画した各種製品が並んでいて、それらを通して戦後の自動車産業史を雄弁に物語っているところが見逃せない。1964年、日野コンテッサに採用された日本初の同社製自動車用ディスクブレーキ。クルマの高速化に伴ってドラムブレーキからディスクブレーキへと先鞭をつけた草分け的なブレーキである。その特徴はシリンダーがアルミ製、ピストンシールがOリング、マウンティング(サポート)がアダプターと一体となっている点にあるという。


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 1982年に自動車部品業界では、初めて機械学会賞に輝いた同社が独自開発した「AD型ディスクブレーキ」。外部露出だった摺動部をピンスライドにし、ゴムブーツでカバーして密封構造にすることで、これまでの錆付き固着問題を解決したという。加えて、高度な設計、生産技術が求められる鋼板製の軽量高剛性マウンティングブラケットにスライドピンを圧接した構造にして、軽量化、低コスト化、さらには引きずりの大幅改善などによって、低燃費化を実現した。

当時の東洋工業(現マツダ)、トヨタなど国内自動車メーカー8社をはじめ、米国のビック3の乗用車にも採用された。日本独自の国産ディスクブレーキ技術が国内外で認められた記念碑的なブレーキの1つでもある。そんな製品設計や生産技術を含めた一連の総合的な独創性、新規性などが高く評価され、1982年の機械学会賞を受賞した。


■開業当初から新幹線のブレーキも
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同社のブレーキ技術は自動車だけにとどまらない。1964年の新幹線開業当初から装着されている「新幹線用ディスクブレーキライニング」(写真)も、その1つである。このライニングは焼結合金で製造されていて、高速からの安定した効きに特徴があるという。また、キャリパーは1992年に300系のぞみに採用されて以来、様々な改良を加えながら最新のN700系に至るまでのJR各社の新幹線に装着されているという。また、愛知高速が2005年の愛知万博の開催に合わせて運行した「リニモ」。このリニモのブレーキは、日本初の磁気浮上式リニアモーターカーのフローティングブレーキで、レールをパッドで挟んで制動する仕組みだ。

2012年7月には、「埼玉県ものづくりスタンプラリー」のスタンプ設置施設の1つとして参加するなど、埼玉県はもちろん、全国的にも知名度を上昇させているブレーキ博物館「Ai-Museum」。そこには埼玉県内の小学校では社会科見学コースの1つに含まれるなど、地道な努力に積み重ねも。


■さりげない安心と感動する制動を提供するのが"ブレーキ"
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「ブレーキへの信頼があるからアクセルが踏めるという、さりげない安心をと感動する制動を提供していることに誇りや感動を持って楽しく仕事をすることが大事だと思います」(『AKEBONO REPORT 2012』から)。製造部門モノづくりセンターのセンター長、山元輝之さんの「ブレーキ論」である。なかなか説得力のある「ものづくり論」の1つにもなろうか。自動車や鉄道など全ての動く物には欠かせない重要基幹製品の1つ「ブレーキ」。そのブレーキづくりの人財を全社的に育成しているのが「モノづくりセンター」(写真)である。

2006年に「生産現場を強くできるグローバル人財を育成する」ことを目的に開設された「モノづくり道場」は2010年度、各製造拠点で進められている最適な標準作業の普及、浸透を行なう「基礎技能教室」と、工程のあるべき姿を示す「お手本ライン」の機能を統合し、11年から「モノづくりセンター」として新たなスタートを切った。

山元さんはその責任者で、「研修生には理屈じゃなくて、自主的に体でものづくりを覚えるよう指導することを心がけています。いってみれば、デンソーの安部良夫さん(第11回ものづくり紀行)が提唱されている"カンコツ"の精神ですね」と、"カンコツ"精神を指導の基本に据えているという。ちなみに、「カンコツ」とは、勘と急所を抑えることの意である。そして、その先には「日本でのものづくり機能を強化して唯一無二の存在に云々……」の、ものづくりに強いグローバル人財の育成を目指している。

■自主性を育てることをモットーに

モノづくりセンターは「ものづくりの原理・原則」を誰でも、いつでも、短期間で自ら学び体験し、仲間づくりを行なう場として位置づけられ、これまでの「安全道場」「APS(Akebono  Production System)道場」「保全道場」「環境道場」「摩擦材道場」に加え、新たに「品質道場」が加わり、6つの道場で人財育成に取り組んでいる。その上に、全ての研修プログラムに体験学習が用意されている。これが特徴の1つでもある。「やはり、自らが作ってみるという自主性を養っていくことに力を入れています。私たちはそれを研修生に促すことを心がけています」(センター長補佐の小倉晴美さん)。2012年秋には、研修生も2000人を軽く超え、係長クラスの研修にも踏み切った。人財育成にも一段と弾みがつきそうだ。

加えて、2012年12月にはグローバル人財の育成に向けた研修センター「Ai‐Village(アイヴィラージュ)」が完成した。グローバルな人財育成も本格化した。同社では「ブレーキ博物館、モノづくりセンターに加えて、グローバル時代を睨んだ研修センターも完成し、人財育成の機能をさらに充実させ、グローバルに活躍できる人財を育て、人的基盤を強化していきます」と大きな期待を寄せている。同社は羽生市進出が1938年というから、地元では馴染みのある企業の1つでもある。

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『ものづくり紀行』口上

自動車部品産業は「ものを作る人々」によって成り立っています。国が認定した「現代の名工」をはじめ、技能オリンピックのメダリストも多数おられます。
そういう方々を訪ねて自動車部品という領域で「ものを作る人々」が持つ思いや、部品企業ならではの楽しさを知っていただく試みとして、不定期連載の形でインタビューをお届けします。
さすがに「京浜間」の物作る人々を活写したエッセイ集などを多数上梓しておられる小関智弘さんのようには参りませんが、なにとぞご一読のほど願い上げます。

 

INDEX

【31】桂山光弘氏 (アイシンAW)

【30】太田雅也氏 (東海理化)

【29】佐藤輝夫氏(アスモ)

【28】匠道場「入江塾」(京浜精密)

【27】沖光和義氏(小島プレス工業)

【26】横堀吉晴氏(ミツバ)

【25】小室和春氏(日立AS)

【24】高橋信雄氏(アルプス電気)

【23】高橋伸尚氏(市光工業)

【22】小岡芳美氏(トヨタ紡織)

【21】田中幸孝氏(東海理化)

【20】ブレーキ博物館

【19】ジヤトコヘリテージコーナー

【18】稲吉喜一郎氏(ジェイテクト)

【17】倭将人氏(小島プレス工業)

【16】池田重晴氏(AISIN AW)

【15】日ピスものづくり学校

【14】杉山良晴氏(日立AS)

【13】朝比輝男氏(ジェイテクト)

【12】三輪修氏(デンソー)

【11】安部良夫氏(デンソー)

【10】水野幸夫氏(豊田自動織機)

【09】中村誠次氏(豊田自動織機)

【08】秋山康夫氏(GKN)

【07】緒方栄一氏(プレス工業)

【06】佐藤賢修氏(デンソー)

【05】桂功氏(デンソー)

【04】杉浦悦夫氏(アイシン精機)

【03】都築數樹氏(アイシン精機)

【02】塚本高敏氏(アイシン精機)

【01】大橋正明氏(アイシン精機)