JAPIA ものづくり紀行

【第28回】匠道場「入江塾」を中心にものづくりへの取り組み
(京浜精密工業)

<番外編その3> 「デジタルに“アナログの感性”を入れ込む」ものづくりに傾注

pht_no28_0.jpg第28回は、番外編その3として京浜精密工業の栃木工場匠道場「入江塾」を中心に同社のものづくり力強化への取り組みをリポートします。同社は1960年8月、トラック用の部品加工などを目的に横浜市内で創業、70年に栃木工場、86年に北海道工場を開設したのに続き、97年にセミホットチャンバー方式のダイカストマシンを導入するなど、自動車用機能部品を主力とするダイカストメーカーです。主な生産品目はA/T(自動変速機)、CVT(無段変速機)、M/T(マニュアルトランスミッション)の各部品をはじめ、ギヤ・コントロール部品、エンジン部品、トランスファー部品などです。2006年には栃木工場に匠道場「入江塾」を開設、同社のものづくりを支える人材育成に力を入れています。また、社員らの自由な発想から共通課題に挑戦する「社内自主研活動」や、改善活動の成果を全社的に確認する目的で「改善事例全社大会」を年に1回開催するなど、様々な形からものづくり力の強化に取り組んでいます。2014年2月には、同社の「究極の1個流し(C-M一貫)を実現させたコンパクトダイカストマシンの開発」がトヨタ自動車の13年度「技術開発賞」を受賞しています。

■機械に“ニンベン”をつけた新たなものづくりへ
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創業以来、一貫してものづくりの指針に掲げている「知恵と五感のものづくり」。語感に昭和の懐かしいものづくりを思い起こさせるような響きも……。時代は平成に移って27年。コンピュータによるデジタル化を背景に熟練の技能がロボットやNC(数値制御)装置に、切削や穴開けなどもキーボード操作にと、それぞれ置き換わり、ものづくりを取り巻く環境は大きく様変わりした。「でも、最新鋭のマシンにもアナログの感性から改善や改良を加えていかなければ、本当のものづくりとはいえません」。専務の駒場一成さんは、デジタルにアナログの感性を入れ込み、 改善や改良を加える“持論”のものづくり論を展開する。 2006年には、そんな狙いから栃木工場に匠道場「入江塾」を開設、デジタル時代に対応した新たな人材育成に乗り出した。「どんなものづくりにも対応できる現場力や改善力を備えた多能工を育成しています」。機械に“ニンベン”をつけたものづくり論にも通じそうな人材育成の試みでもある。


■“デリバリーピザショップ”をヒントに新たな生産ライン構築も

京浜精密工業は古くからA/TやCVT車用のバルブボティーなどダイカスト部品製造を得意とする自動車部品メーカーとして知られる。そのダイカストとは「溶かした金属を金型に圧入して、高品位な鋳物を大量生産する」(「最新金型の基本と仕組み」=森重功一)鋳造法の1つで、「一般に、ほかの鋳造方法より鋳肌が良好であり、寸法精度も高く生産性が高いのが特長」(「図解雑学金型のしくみ」=堂田邦明)といわれる。日本では1914年に実用化、50年頃にカメラ、家電製品、55年にオートバイ、65年頃から自動車の部品製造にも多用されている生産方式である。

そんなダイカスト分野で独自の生産ラインを構築するなど、技術力の高さには業界でも定評のある企業の1つだ。中でも、トヨタ自動車の2013年度「技術開発賞」に輝いた「究極の1個流し(C-M一貫)を実現させたコンパクトダイカストマシンの開発」は、デリバリーピザショップをヒントに、CVT車用のバルブボティー生産を原材料のダイカストから仕上げ、加工、検査ラインまで一気に流すラインとして計画されたもので、基本には停滞排除と情報制御を据え、開発したダイカストマシンを軸に工程間の仕掛かり在庫を持たずに、顧客が必要なものを、必要な時に、必要な分だけタイムリーに届ける“ジャスト・イン・タイム”の生産ラインの構築を目指した。

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それは、生産ラインの先頭に設置可能な500トンマシン比マイナス40%サイズの1個流し(C-M一貫)を実現するコンパクトダイカストマシンを開発するところから始まった。計画では、開発するのは畳三畳サイズの大きさの400トンダイカストマシンと設定。新型締め機構の採用をはじめ、型開きストロークの最適化、省エネタイプに加え、鋳造品品質モニタリングシステムを導入することなどを決め、鋳造機械メーカーとの共同開発に臨んだ。

そこで、まず、開発したダイカストマシンを「一気通貫生産ライン」の先頭に配置。その上で、同マシンと同期化したトリミング(不必要な部分を切り取る)、ショットブラスト(細かい砂や鋼製、鋳鉄製の小球などを金属に吹き付けたり、打ち当てたりして表面を仕上げる加工)の両工程をマシンサイドに配置した。そして、センサーを利用して量、音、光、圧力、温度などを計測・判別するセンシングによる設備の監視やミスの未然防止策などを施すなどして、簡素な加工ラインを構築した。

最終工程の検査ラインには高精度なレーザー内径検査装置を導入、同ライン内の100%の品質保証を実現した結果、最上流のダイカストから検査ラインまで一気に流す「一気通貫生産ライン」を実現した。そればかりか、電気、ガス、水道があれば、どこでも生産が可能なラインを構築できることも“売り”の1つでもある。これも、同社のものづくりの実力ぶりを物語る具体的な生産ラインの構築例だ。


■さらに、寿司屋もヒントに効率的な混流生産の新ラインも
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また、例え、1個だけの注文にもどう素早く応じられるか――。そんなテーマに取り組んだのが「スーパーフレキシブルライン(SFL)」の構築だった。そこで着想のイメージにしたのが、受注生産方式の「ものづくりの寿司屋」だったというか何ともユニークだ。構築目標に掲げたのは効率的な混流生産で、それには効率的な瞬時のマシンの段替えをはじめ、在庫を持たずに、多量部品と同等の生産性で多品種の製品を少量生産するラインを構築していく必要があった。そこで、顧客の多様な要求に応える材料提供、段替え、デリバリーなど、全てのプロセスを1つのシステムと捉えて「多品種少量ライン」の構築を実現した。ただ、現在も同ラインは道半ばのようで、さらに同ラインの改善に力を注ぐ方針だ。

JR宇都宮駅からクルマで約20分、丘陵地帯に広がる栃木県の鹿沼工業団地。その一角に同社は栃木工場を構える。操業開始は1970年というから、45年の年輪を刻む同社の主力工場だ。現在、3万3000平方メートルの敷地面積に開発部門のテクニカルセンターをはじめ、工機工場、鋳造工場3棟、加工工場4棟が立ち並び、延べ床面積1万3587平方メートルの規模を誇っている。2006年、そんな同工場に新たに開設したのが、同社のものづくりのシンボルでもある匠道場「入江塾」だ。同社の一連のものづくりを支える人材育成の基幹施設でもある。2015年で開設から9年目を迎える。


■アナログに技能にも力を注ぐ匠道場「入江塾」

もちろん、同塾を貫いているバックボーンは、創業以来のものづくり指針に掲げる「知恵と五感のものづくり」。同塾の開設では横浜本社、北海道工場などに保管している機械設備や各種装置などを同塾に集め、“生きた教材”として活用することも決めた。また、塾名を「入江塾」と名づけたのは、会社創業地(現在は管理部門の横浜本社)の「横浜市神奈川区入江」の地名から採用したともいう。

「最近はボタン1つで加工ラインが動き、製品が作られています。しかし、マシンや各種装置の中でどのように加工されているのか、実際には全く分かりません。極端にいえば、現在はコンピュータの指示に従ってマシンの中で製品に加工されています。技能者はそれが終わるのを待つだけです。これではどんな原理でものが作られるのか理解できませんね。だから、塾ではものづくりの基本であるアナログの技能を伝承することに力点を置いています。塾を開設した目的も、そこにありましたから」。常務で栃木工場長の大貫文男さんも、アナログ技能伝承の重要性を力説するのを忘れない。

同塾は開設以来、新人からベテランまでの幅広い社員を対象に、どんなものづくりにも対応できる人材育成に重点を置いています。その先には現場力や改善力を備えた「多能工」の育成を視野に入れているからだ。具体的な人材教育では「基礎技能・基礎知識」の学習をはじめ、「階層別教育」の実施、「安全、品質、作業、訓練、ポカヨケ、製品機能」の研修などを実機、モデル機などを通して定期的な反復訓練なども重ねているという。


■「改善事例全社大会」が加わり、一段とものづくり力強化
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加えて、本社などから集めた機械設備やモデル機、実機などの各種装置も同塾のコーナーごとに展示。操作手法から実践的な技能習得などと、生きた教材として活用している。例えば、指先の微妙な感触を体得する装置、からくりの原理を導入して製作した製品移動装置など、文字通り“昭和の時代”に活躍した機械設備や各種装置ばかりだ。

中でも、圧巻だったのが作業中のちょっとした油断などで発生するアクシデントの危険から「身を守る」コーナーである。ワークの足元近くにある突起物のような箇所に足などが触れると、突然、同ワークから袋状の物体が飛び出してくる仕掛けとなっていた。すると、周囲から一斉に技能者らの「触るな」の大きな声が飛んできた。というのも、ワークから飛び出してきた袋状の物体に手や足などが触れると、思わぬケガを負ってしまう恐れがあるからだ。「ものづくりにはどんな時代が来ようとも、常に身に危険なことが付いて回っていると思います。だからこそ、ものづくりは安全が第一です。そこで、作業中の油断などから発生する危険を防止する目的から、敢えてこんなコーナーも展示してみました。ケガをしたら、それこそものづくりどころではありませんからね」(前出の大貫さん)。

同社の人材育成には、同塾に「社内自主研活動」や「改善事例全社大会」などが加わり、ものづくり強化に向けた取り組みが幅広い観点から展開されている。「社内自主研活動」は、役職者を中心にじっくり観察、じっくり考え、そして素早く行動を基本に、問題意識を共有の上で課題に挑戦することで、ものづくり改善費用の低減、マシン加工時間の短縮、人の手扱いの改善など、生産性の向上に活用するのが狙いである。活動は社員らの自由な発想からアイデアなどを出し合うことが第一だとしている。

また、「改善事例全社大会」は1年間の改善活動の成果確認、さらなる改善への意欲増進などを目的に年に1回のペースで開催している。出場するのは、社内の全31サークルから勝ち抜いた9サークルで、「知恵と五感のモノづくり大賞」を目指して改善力の“優劣”を競い合うのが特徴だ。そこには全社的にものづくりの改善力を高めていこうという意図があるからだ。その上で「会社という神輿を社員全員が担いでいこうという連帯感も増進したいです」(前出の駒場さん)。


■デジタル時代を睨み、新たな産業政策の検討に本腰

ものづくりの世界も、新興国や中進国などの台頭が著しい。例えば、日本国内に販売される繊維製品の95%は外国産だという。その一方で、日本の製造業もあらゆるモノがセンサーなどで繋がり、データから生み出される“もの”が付加価値の源泉に結びつくというデジタル化で大きく変容し始めている。しかも、デジタル化は市場と製造現場とが直接的に結びつくことを促し、企業の競争力も技術力から市場ニーズ対応力にと変質してきた。このため、技術や技能の面からも、製品データの解析を通じた保守サービスの高度化、生産ラインに張り巡らせたセンサー情報を活用した生産の効率化などが求められている。経産省でも「(デジタル化は)重要な政策課題の1つです」(黒田篤郎製造産業局長)といい、デジタル化時代を睨んだ新たな政策展開の検討も始めた。京浜精密工業のデジタル化を前提としたものづくりの取り組みも、そんな試みの1つかもしれない。「水が水をうたいはじめる春になる」(荻原井泉水)。ものづくり新時代はデジタル化を軸に一段と勢いを増しそうだ。


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本社は横浜市神奈川区入江2-12-4。創業は1960年8月15日。社長は駒場徹郎氏。

資本金1億400万円。従業員は450人。内訳は本社15人、栃木工場315人、北海道工場120人。主な取引先はアイウエオ順に、アイシン・エーアイ、アイシン・エイ・ダブリユ、いすゞ自動車、自動車部品工業、トヨタ自動車、三菱ふそうトラック・バスなど。

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『ものづくり紀行』口上

自動車部品産業は「ものを作る人々」によって成り立っています。国が認定した「現代の名工」をはじめ、技能オリンピックのメダリストも多数おられます。
そういう方々を訪ねて自動車部品という領域で「ものを作る人々」が持つ思いや、部品企業ならではの楽しさを知っていただく試みとして、不定期連載の形でインタビューをお届けします。
さすがに「京浜間」の物作る人々を活写したエッセイ集などを多数上梓しておられる小関智弘さんのようには参りませんが、なにとぞご一読のほど願い上げます。

 

INDEX

【31】桂山光弘氏 (アイシンAW)

【30】太田雅也氏 (東海理化)

【29】佐藤輝夫氏(アスモ)

【28】匠道場「入江塾」(京浜精密)

【27】沖光和義氏(小島プレス工業)

【26】横堀吉晴氏(ミツバ)

【25】小室和春氏(日立AS)

【24】高橋信雄氏(アルプス電気)

【23】高橋伸尚氏(市光工業)

【22】小岡芳美氏(トヨタ紡織)

【21】田中幸孝氏(東海理化)

【20】ブレーキ博物館

【19】ジヤトコヘリテージコーナー

【18】稲吉喜一郎氏(ジェイテクト)

【17】倭将人氏(小島プレス工業)

【16】池田重晴氏(AISIN AW)

【15】日ピスものづくり学校

【14】杉山良晴氏(日立AS)

【13】朝比輝男氏(ジェイテクト)

【12】三輪修氏(デンソー)

【11】安部良夫氏(デンソー)

【10】水野幸夫氏(豊田自動織機)

【09】中村誠次氏(豊田自動織機)

【08】秋山康夫氏(GKN)

【07】緒方栄一氏(プレス工業)

【06】佐藤賢修氏(デンソー)

【05】桂功氏(デンソー)

【04】杉浦悦夫氏(アイシン精機)

【03】都築數樹氏(アイシン精機)

【02】塚本高敏氏(アイシン精機)

【01】大橋正明氏(アイシン精機)